インコタームズの陰影

~CIFの落とし穴 ― 見えないマージンと“マイナス運賃”の真実~

目次

■ 序章:CIF価格が安いときほど、少しだけ疑ってみよう

見積書に「CIF OSAKA」――運賃と保険料込みの安心価格。

しかし、実務の現場ではその「込み」の中身こそが最も注意すべき部分です。

STK商会がこれまで中国メーカーとの取引で見てきたなかには、「CIFを安く見せる」ための構造的な仕掛けが潜んでいました。

それは単なるズルや不正ではなく、“商習慣と市場構造が生んだ”現実です。

■ 第1章:輸出者・フォワーダー・船会社の“三角関係”

CIFの裏側では、ときに輸出者・フォワーダー・船会社の三者が協調して、価格を“きれいに見せる”ことが過去にはありました。

たとえば:

船会社が輸出者に対し「極端に安い(ゼロまたはマイナス)運賃」を提示

そのマイナス分を日本側の輸入者から別名目で徴収して補填

結果、CIF価格は見た目が安く、他社見積もりより有利に見える

つまり、CIFが安い=コストが消えているのではなく、“別のポケットに移っている”というだけの話だったのです。

実際に、かなり前ではありますが中国からの船賃が「ゼロ」や「マイナス」でオファーされた時期もあり、その分を港湾費や書類費の名目で日本側に課金していた例も確認されています。

■ 第2章:中国政府の規制と、残る“価格の霧”

こうした極端な取引は、近年では中国政府の規制により「ゼロ運賃」が禁止されています。

しかし、規制が入った今でも、透明性が確保されたとは言い切れないところです。

見積書に「CIF」のみが記載され、フォワーダー名も船会社名も出ていない場合、どこでどのように費用が動いているかを確認する必要があります。

数字よりも、“誰が舵を握っているか”を見極めることが、CIF条件を扱ううえでの重要な視点です。

■ 第3章:ゼロ運賃は“悪”ではない ― 物流の呼吸

実は「マイナス運賃」は、必ずしも悪ではありません。

ときに、それは国際物流を循環させるための“呼吸”のようなものでもあるのです。

たとえば、中国→米国間の貿易は往路が圧倒的に多く、米国に空コンテナが大量に滞留します。

コンテナは戻さなければ使えないため、船会社は空コンテナ回送費を避けるために、新聞古紙・牧草・リサイクル原料などを「かなり安い運賃」で大量に輸送する。

つまり、この運賃の裏には、「コンテナを動かし続けるための合理性」があるのです。

貿易の世界では、“損して得取る”の論理がインフラを支えているということです。

■ 第4章:中国ビジネスは“玉石混交”

そして、価格の透明性というテーマは、物流だけに限った話ではありません。

中国はまさに玉石混交のビジネス社会です。

最近では、中国の業販サイト(たとえば「1688」など)を通じて「この価格、ほんまかいな?」というほど安い商品を見かけることがあります。

当社STK商会でも、お客様の要望を受け、現地代理店を通じて直接その会社に問い合わせを行うことがよくあります。

すると、多くの場合――実際の販売価格は、掲載価格の3倍・4倍ということも珍しくありません。

いわゆる「釣り」広告で、自社サイトに誘導するためのフックとなっているということ。

この経験から痛感するのは、「極端に安い価格には、必ず理由がある」ということです。

それはCIF価格にも同じことが言えます。

“安さ”の背景には必ず“構造”がある。

だからこそ、最終的には“信頼”の醸成が何より大切になります。

相手が誰で、どんな取引をしているのか。

価格よりも、その“筋”を見抜くことが中国取引の第一歩なのです。

■ 第5章:FOBで取引の“筋”を通す

こうした背景から、STK商会では基本的にFOB契約を採用しています。

現地フォワーダーを自社で指名・契約し、輸出通関・船積み・保険・輸送を自社主導で進めることで、費用の流れを可視化しています。

FOBは、単に“コスト管理の手法”ではありません。

それは、取引の筋を通すためのスタンスです。

数字の上で安く見せるより、「どこにリスクがあり、どこに責任があるか」を明確にする。

それが最終的には、仕入れ先にも、卸先にも、信頼を生むと考えているからです。

■ 終章:安さより“筋の通った商い”を

CIFもFOBも、選び方次第。

しかし、どちらを選ぶにしても、価格の“見せ方”に惑わされない目が必要です。

中国との取引はその価格、情報の多さとスピードが魅力である反面、その裏にある“ノイズ”を見抜けるかどうかで結果が変わります。

「安いから良い」ではなく、「筋が通っているから安心できる」――

STK商会は、そんな商いを信条としています。

✍️ 編集後記

安さは一瞬の魅力、信頼は長期の資産。

どんなに時代が変わっても、海外取引の本質はそこにあるのかもしれません。

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